3年目の憂鬱

(1)


憂鬱だ、すごく。

 




手帳の12月11日に、ピンクの蛍光ペンでデカデカとハートを書き込んだ。


「よっし!」
「なーにが、よっし、よ?なに気合いれてんの」


力んでいたあたしの右肩らへんから、ひょこっと顔を出しながら、友だちが言った。

「12月11日?久世くんとどっか行くの?」
「んーーーーーーーーー・・・」
「なんで、あんたが首ひねんのよ?デートだからハートつけてたんじゃないの?」
「んーーー・・・・・」

またまたあたしが首をひねると、友だちがますます怪訝そうな顔をした。

「なによー」
「んーとぉ・・・・、デートになればいいな、と思って」
「あー、11日っていうとー・・・・・」
「うん、だから、デートできればいいな、と思って願望でシルシをつけたわけ」
「うん?」
「・・・・・・でも、待ちの姿勢じゃダメなことくらい分かってるので・・・・・・・」

はぁ、と言葉の途中でため息をつく。
すると、友だちが「幸せ逃げまっせ」と茶々を入れてきた。

「出かけたいって誘いに行くなら、そらもーステキな笑顔で挑まないと」
「うー・・・・・・・・・・・、そうでしたっ!!!」
「そんじゃ、とりあえず健闘を祈る!」

友だちがちょっとふざけながら敬礼のポーズをとって言った。
それに少し吹き出してしまうと、友だちが「ん?」と少し顔をゆがめた。


「ごめんごめん。では、行ってきますっ!!」


**********

 

「とーもーやーくん?」


にっこり満面の笑顔で友哉の横に立って言う。

すると、失礼なことに、友哉が顔を引きつらせて、あたしから少し体を引いた。


「ちょっと!」



思わずいつもの調子で言いかけてしまってから、しまった、と思い直し、
コホン、と咳払いをして言い直す。

「友哉くん、リーディングの訳、見たくない?」
「・・・・・・・・・・・・」

友哉がますます疑わしそうな表情をしてあたしを見る。

「・・・・・見たくないの!?」
「・・・・・なんで言ってることは親切なのに、そんな脅し口調なんだよ、お前・・・」
「お、脅してなんかないでしょ!親切心でゆってんじゃないのよ」
「親切っていうのはよ、もっと優しさに満ちたもんだと思うんだけど」
「・・・・・なんか言ったの?」
「いえ?」
「で、見るの、見ないの!」
「・・・・・お前、それ、脅す気しかないだろ・・・・・・。。。」


椅子に座って眉間にしわを寄せたまま、あたしのことを友哉が見上げ続ける。


しばらく沈黙が続いて、友哉があたしの瞳から、何かを読み取ろうと
ジーっとその黒い瞳で見つめてくる。


思わず、ゴクリ、と息を飲む。


「・・・・・ま、いいや。見る見る、見させていただきます」
「友哉5番だから、今日当たるかもでしょ?カナリ慎重にやってきたから」
「・・・・・信じていい、と」
「うん」
「・・・・・で、なに」
「・・・・・え?な、なにが」

見透かされていたようで、思わずどもってしまう。

「なんか話があるんだろ?ぜってーありえないじゃねーか、普段なら」
「なにがー」
「なに言ってんのよ!リーディングの訳見せろ!?
 自分でやんなきゃ意味ないっ!ダブリたいわけっ!!
 だろ、いつものお前の反応を考えると」
「・・・・・・・・・・・失礼ね」

口マネをしながら言う友哉に、少なくない反発心が芽生えてくるものの、
図星なので強く否定できない自分が悲しい・・・。。。

「言ってみ」
「えーとぉ・・・・・・・・」

久しぶりに出かけようと誘うのは、なんだかちょっと緊張する。

「あの、さ」
「早く言えって」
「もー!」
「怒ってるヒマあったら言えって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・今週の日曜日、出かけない?」

友哉の片眉がピクリと上がった。
それは・・・・・、どういう意味?

「日曜?」
「・・・・・・たまにはさ、出かけたりしたいもん、友哉と」」

少し唇を尖らせて、友哉の答えに反応すると、
またまた友哉はしばらくの沈黙を作り出して、ちょっとの間、宙を仰いぐ。

「・・・・わかった」
「ホント!?」
「おまえなぁ・・・・、お前が出かけたいって言ったんだろーが」
「そ、そうだよね」

エヘ、と思わずわざとらしい笑いをうかべてしまう。

ダメだダメだ、もっと自然に、自然に。

「友哉、あと、さ」
「あー?」

机の中から何かを探し出す片手間に友哉が返事をする。



「今日、一緒に帰っていい?」


ぶっ、と友哉が吹き出した。
笑いで吹き出したんじゃなくて、あまりの動揺による吹き出し、だと思われますが。


「・・・・・・・なに、突然」
「いーじゃん、たまには」
「でも俺、部活あるから遅くなるし・・・・・・」


・・・・・言うと思った!


「いいよ、待ってる。
 だって、たまには友哉といろんなことしゃべりたいし。
 友哉、毎日部活部活で全然二人になれないし・・・、ね」

半分自己陶酔しながら言うと、それまであたしの方を見向きもしていなかった友哉が
すくっと立ち上がって、あたしの目の前に立ちふさがった。


最近、まれに見られない接近・・・・・。



「熱ある?」

ピタリ、と友哉の少しひんやりした手があたしの額にあてられる。



「・・・・・・・・なんのマネよ」

口の端が引きつるのを耐えながら言う。

「いや、熱でも出たんかなぁ、と」
「なんですっ」

てー!!!!?
と、怒鳴りつけてしまう寸前で我慢して、もう一度トライ。

「ね、熱なんかないよ?友哉とちょっとでも一緒にいたいから言ってるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、っそ」

ま、いーけどね、と友哉が小さく言ったのが分かって、
エヘヘ・・・・・、とまたアイソ笑いをうかべてしまった。