3年目の憂鬱

(3)

 

「おー、ホントに待ってたんか」
「・・・・・待ってるって言ったじゃん」
「なんでむくれる」
「むくれてないもん」

しばし沈黙。


「あー、これはこれは、久世夫人じゃーん、久々じゃない?部活終わるまで待ってるの」

わいわいがやがやと、部室の中から出てきた部員たちが、
あたしと友哉のことを少し冷やかしだした。
あたしがそれを曖昧に笑いながらかわしていると、突然、あの声が、聞こえてきた。

「久世センパーイ」



・・・・・・カオリちゃんだ。



「今日も送ってもらってもいーですかぁ〜??」

カオリちゃんは、友哉の姿しか目に入っていないらしく、隣に立ちすくんでいるあたしには
全く気づく様子がなく、またあの甘々なトーンで言った。


っていうか。


今日「も」送ってもらって、とか言った?
今日「も」って、どーゆーこと?



「あ、もしかして・・・・・、久世センパイの彼女さんですかぁ〜??」

ようやくあたしの存在に気づいたカオリちゃんが、ようやく話を振ってきた。

「あー、大食いオンナの木村歩です」
「バカっ!」

ギュムっと友哉の足を踏みつけてやる。

「いてーな!」
「当然の報いでしょ。
 えーと・・・・・、マネージャーさんですよね。いつもお仕事お疲れ様です」

敢えて必要以上に落ち着いた声で言うように心がけた。
いくらこのコが友哉に近づこうとも、どんな頑張りを発揮したとしても、
友哉の彼女はあたしなんだから、貫禄(?)と余裕を見せなくては!


「そんなことないです〜、久世センパイにはいつもイロイロ教えてもらっちゃって〜」

バチバチっと、あたしと、カオリちゃんの視線がぶつかったところで
火花が散ったような・・・・・・・・気がした。


このコ、完全にあたしに宣戦布告してきてるんだけど。


言葉の中にも、それは隠されてるし、
何よりあたしを見つめるその瞳が、「久世センパイはあたしのモノ」と主張している。



あー、いけない、いけない。
貫禄と余裕
貫禄と余裕。

自分自身に何度も言い聞かせる。


コンコンと、グーにした手を額に当てていると、友哉が笑いながら言った。

「なにやってんだ、おまえ」
「・・・・なんでもないのっ」

アホか、と少しあたしをからかうように笑ったあと、友哉はカオリちゃんに向かって言った。


「カオリちゃん、そういうワケで悪いね、
 今日はコイツ送ってくからさ、他のヤツに声かけてくれる?」



思わず、耳を疑った。


あたしを、送っていくから、カオリちゃんのことは送れない、と友哉は言った。
ウソみたいだ。
友哉のことだから、結局3人で帰ろうとか言い出すかな、とちょっと思ってた。



うれしい。
ホントに、うれしい。

あのコよりは、まだ、あたしは友哉に大事にされる存在なんだな、って思えて。


本当は、「カオリちゃん」と「コイツ」っていう呼び方の差も
すごく気になったんだけど。

それさえもなかったことにしてあげあれるくらい、
、あたしと二人で帰ることを選んでくれたことが嬉しかった。




だけど。




「おまえなー、今度からは待ってないで先帰ってろよー」

友哉が眉間にしわを寄せて言った。

カオリちゃんが苦々しい顔をしながら、あたしたちの前を去っていって、
二人きりになったとたんに、表情を変えて。


「なんで、そんな180度態度がかわんのよ・・・・・」
「あー?なんか言ったか?」

小声で言ったせいか、友哉には聞き取れなかったようだけど、それでよかったのかもしれない。

「別に」
「カオリちゃん送ってかなきゃなんないときもあるんだし」
「・・・・・・・・・・」
「プレイヤーは面白おかしく騒ぐしよー」

お前らみんな小学生か、とツッコミたくなったけど、とりあえずこの場は耐えた。


でもなんでこうかな?
サッカー部のみなさんといるときの友哉はすごく楽しそうだし、
カオリちゃんと話しているときでさえ、友哉は笑顔をみせたりしていた。


・・・・大口あけてあくびすんのはどっちよ。

あんたの方じゃないのよ。


友哉は、あたしと二人でいても、楽しくないんだろうか。



「・・・・・・・あたしは、友哉と二人で帰れて、送ってもらえて、すごく嬉しいのにな」



思わずため息と一緒に言葉がもれる。
友哉に伝える言葉というよりは独り言に近くて
言葉の通り、自然に口からもれてきた、そんなカンジ。

さすがのあたしも、ちょっとシュンとしてうつむきながら歩いていると、
パチンと、あたしの額で音が鳴った。

「なにすんの!」

音が鳴った原因は、友哉の4本の指先が、あたしの額をはたいたことだった。


あたしは今まで下を向いていた顔を上げ、
おデコを手のひらで覆いながら友哉に噛み付くイキオイで言ってやる。


すると。

意外にも、友哉は笑っていた。


「ばーっか、何言ってんだ」


いつもよりも、各段に優しく。
口調はいつもの通り、にくたらしかったけど。
普段なかなか見せない、笑い顔とは違う、笑顔を作っていた。





やだな。



ドキドキしてしまう。







こうやって、笑った顔とか、「ばーっか」っていう声とか、
そういうのにドキドキしてるのは、愛しいと思ってるのは、あたしだけ、なのかな。


友哉は、あたしのこと、そういう風に思ってくれること、あるのかな。






聞いてみたいけど・・・・・・、今は、怖くて、聞けない・・・・。