3年目の憂鬱

(2)

 

 

あたしと友哉は、もう付き合い始めて丸3年になる。
中二の夏に、どこからともなく付き合い始めて、もうあたしたちは高二。


不動のカップルと呼ばれること多々。
熟年夫婦と呼ばれることしばしば。


あたしたちは、ウチの学年のコならほとんどの人が知ってるカップルで。
3年って言う長い間に、
付き合い始めのドキドキ感とか、相手のことを過剰なまでに気遣う気持ちは、
もう、とうになくなってしまったけど。

それでも、あたしは、友哉のことがすきだと、
そういう気持ちが自分の中にあるって自信が確かにあったし、
あたしがそうなんだから、もちろん友哉だってそうだって、疑いもしなかった。




・・・・・・昨日までは。




本当に、たまたまだった。
校舎を出てから、正門に向かう道。
いつもだったら通らない道を選んだ、本当に、たまたま。

そこにたまたま、サッカー部の皆様が、部活中の休憩をしていた。



「えーーー!!久世センパイって、もう彼女と3年目なんですかぁ〜??」



思わず耳を奪われて、思わず足を止めてしまったのは、この声が聞こえてきたからだった。

あたしは学校中の「久世」さんを存じているワケではないし、
友哉のことではないかもしれないけど。


でも、今、「彼女と3年目」っつったね?


それはまさしく、まぎれもなく久世友哉くんが話題の中心になっているのではないでしょうか?


「そうそう、カオリちゃ〜ん、知らなかったの〜?」

どうやら、サッカー部のプレイヤーのみなさんと、
マネージャーのカオリちゃんが、話をしているらしかった。


「知らなかったですよー!ちょーショックですー!!」
「ショックってどーゆーことよ、カオリちゃん!」

いや、それをツッコミたいのはあたし!
あたしだってば!
どういうつもりよ!!

「どういうつもりって・・・・、深い意味はないですけどぉ〜・・・・」
「いやいや、カオリちゃん、久世はダメだって。すっげー仲いんだから、ここの夫婦」
「夫婦ゆうなや・・・・・」

ゲッソリしたような友哉の受け答え。

「夫婦みてーなもんじゃん、お前ら」
「ヤメテ」
「なになにー、久世ご夫妻の話〜?」


また新たな人間が会話に加わってきたようだ。


「だから、なんだ、そのご夫妻って・・・・・お前ら・・・・」
「なんだよー、久世ー、お前ちょー贅沢!木村さん、いーじゃん、なんか、知的で」
「おー、俺もそれ分かるわー、知的美人ってカンジでいーよなぁ!」
「大人しそうだしなぁ」

いいこと言うじゃない、あんたたち!

「おまえらなぁ、アイツと付き合ったことないから分かんねーんだって。
 大人しそうに見えっけど、そーとーキツイからな、性格」
「そうなんですか〜??彼女さん、優しくないんですか〜??」
「優しくねーもなにも、俺に向かって怒鳴るし、はたくし、
 大口あけてあくびはするし、大食いだしなぁ、問題外問題外。」
「エー、ひどーい」


・・・・・・・な・・・・・・。。。


「だから久世は贅沢だって言うんだよなぁー。
 いーじゃん、たまに部活見に来ててさ、「友哉、飲み物」とか差し入れもらってんじゃん」
「あー、まぁ、それはぁ〜・・・・」


そ、そうだよね、それくらいは彼女らしいとこも、ある、よね。
なんか、よくない汗かいてきた。


「だからぁ、仲がいいから付き合ってるとか言うわけじゃなくて」


その、友哉のが紡ぎ始めた言葉を耳にして、あたしの心臓が、
過剰すぎるほどに、ドクドクドクドクと、音を立て始めた。



「おっ、重い発言、出ますかっ??」
「なーに言ってんだよ、仲いいから3年も続いてんだろーが」

ドクドクドクドク、心臓が鳴り続ける。



「3年も付き合ってると情がわいてきて、飽きがきてもなかなか別れられないんだって」





ハンマーで。

もしくは、いわゆる鈍器で、頭を思いっきり殴られたような、気がした。





あ・・・・・飽きがきても?
情がわいて?
なかなか別れられない?


それって・・・・、それってつまり。


3年も付き合ってるから。
あたしには、もう、飽きてるけど。
情もわいてきてるし。

本当は別れたいけど、別れられないって・・・・・・・、そういう、こと?



あたしに対する気持ちは、あたしが、友哉に持っているような気持ちは、
友哉の中からは、もうとっくになくなっちゃってるって、そういう、こと?



つまり、今、あたしと友哉が付き合ってるのは、ど、ど、ど、同情?




自分の中で、今までの話を整理整頓して、
もう一度鈍器やらハンマーやらで頭がわれるほどに殴られたような衝撃を再確認した。




だから、憂鬱。
昨日から、テンションは下がりっぱなし。





「おー・・・、言うねぇ、久世くんもー・・・」

友だちが上目遣いで空を見上げながら言った。
ちょっとコメントに困っているみたいだった。

そら・・・・、そーだよね。

「でも、あたし、決めたから!」
「はい?」
「ぜーーーーったい、別れられないようにしてやる!」

顔の横で、右手の拳を握り締めてガッツポーズのような格好をしながら宣言する。
すると、友だちがパチパチと手を叩きながら言った。

「お見事」
「お褒めに預かり、光栄デス」
「ま、久世くんの愛情は、確かに見えにくいよね、目には。
 端から見てれば、歩が久世くんのことすきなのは一目瞭然なんだけどね」
「え!うそ!!」
「うそじゃないよ。見てれば分かるよ」
「え!バレバレ!?」
「・・・・・・あんたねぇ、バレたっていーじゃん、別に。付き合ってんだから」
「あ、そうか」
「そうだよ。まー、頑張って。
 とりあえず部活をこうやって見に来て、一緒に帰ろうって言ったりするのは、
 一種の牽制なんでしょーけど・・・・・、必要っぽいし、ファイトだ!」

あたしの今日の作戦がバレバレだったので、白状して友だちに聞いてみる。

「・・・・・・やっぱり、あのコ、危ないよね」
「危ないね、100%久世くんを狙ってる目だね・・・・ハンターのような・・・」
「コワ・・・・・」
「だからこーやってあのコに対して牽制して部活終わんの待ってんでしょ。
 まぁ、久世くんとのトキメキ取り戻したいのも半分以上なんだろうけど・・・」



そう。

友哉とのトキメキ。
取り戻したいの。

っていうか、友哉の気持ちを、取り戻したいの。



もう一度、きちんと、恋をし直そうよ。


「まぁ、初心に返ってみるのも、たまにはいーかもね」
「ウン」
「ガンバレ、歩」
「ウン」